d_559396 男性たちの純愛事情

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春の夕暮れ、大学の片隅にあるベンチ。
静かにノートをめくる指の横に、ふいに缶コーヒーが差し出された。

「ブラックで良かったよな。」
彼は驚きもせずに受け取る。
毎日のように同じ時間に隣に座ってくる男。
いつの間にか、その存在が生活の中に自然と馴染んでいた。

会話は少ない。
でも、缶の温もりが心まで染みてくる。
手が触れた瞬間、どちらからともなく、ゆっくりと視線が交差する。

「触れても、いいか?」
言葉よりも先に、唇が重なった。

***
その頃、書店の片隅では、別の静かな物語が始まっていた。

背の高い店員が、慌ただしく本棚を整理していると、ぶつかるようにして目の前に立っていた男と目が合う。
少し不機嫌そうな目元に、なぜか惹かれた。

「これ、取りにくくてさ。」
上の棚から手を伸ばす男の腰に、自然と腕が回る。

「手伝いますよ。」
一瞬の沈黙。
戸惑いと、何かを試すような視線。

「…ありがとう。
でも、次からは俺に触れる理由、ちゃんと作ってね。」
彼はそのまま本を手に取って、ゆっくりと去っていった。

残された店員の胸は、熱を帯びていた。

***
さらに別の場所――古びたジムのロッカールーム。
汗の匂いが残る空間で、彼らはいつも無言だった。

無骨なトレーナーと、無愛想なボクサー。

言葉はいらない。
タオルを渡し、水を投げるように渡す。
それだけで、心のどこかが満たされる。

シャワーの蒸気の中で、指先が一瞬だけ触れた。
バチッと火花が散るような感覚。

「…今日は、遅いな。」
「お前が気になるせいだろ。」
視線を交わし、何も言わずに距離が縮まる。

濡れた髪の匂い、肌の熱、唇の触れ合い。

言葉よりも、互いの温度がすべてを物語っていた。

***
夜の街。
ビルの谷間にあるバーのカウンター。

静かにグラスを傾ける男に、バーテンダーが声をかける。

「また今日もひとり?」
「ひとりが落ち着く。」
「でもさ、君の目、誰かを待ってる目してる。」
苦笑いを浮かべて、男はウイスキーを飲み干す。
その横顔を、バーテンダーは黙って見つめていた。

閉店後、掃除を終えた店内で、残っていた客の男がふいに口を開く。

「お前の作るカクテル、あったかい。」
「…俺の手も、あったかいよ。」
重なる手。
初めて触れるぬくもりに、男の肩が震える。

「なあ、ここに通う理由…わかったかも。」
「じゃあ、これからは‘帰ってくる場所’にしてくれよ。」
二人はカウンターの奥、柔らかな照明の中で静かに唇を重ねた。

***
恋は、どこにでもある。

静かな午後の大学の片隅。

本屋の棚の前。

汗と蒸気が漂うロッカーの中。

深夜のバーの片隅。

誰にも気づかれず、でも確かにそこにある。

男たちは言葉少なに、けれど真っ直ぐに恋をする。

手を伸ばす勇気も、触れたあとの震えも、
きっと彼らにとっては、初めての感情だったのだろう。

胸の奥が熱くなるその瞬間だけは、偽りなく、真っ直ぐな純愛。

それぞれの事情、それぞれの関係。

だが、どの想いも、誰にも否定できない真実だった。

彼らの恋は、今日もひっそりと、息をしている。
もっど見せる

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情報

  • 品番

    d_559396

  • ページ数

    画像73枚

  • 発売日

    2025.04.28

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